伊豆半島は日本で唯一フィリピン海プレート上にあり、地質学的に大変貴重な場所で、ユネスコの世界ジオパークにも認定されています。日本のジオパークは44か所あり、そのうち世界ジオパークに認定されているのは、伊豆半島ジオパークを含めて9か所です。
伊豆半島は、約2000万年前、数100km離れた南太平洋にあった火山島がプレートの動きによって、現在のところまで移動してきました。伊豆半島には海底火山の溶岩や堆積物だけでなく、約60万年前に現在の位置になってから噴火した陸上火山の溶岩と堆積物が見られます。つまり、1か所で古い海底火山と新しい陸上火山の両方をみることができる、珍しい場所なのです。
そんな貴重な伊豆のジオを見学する1泊2日の「ジオツアー」を企画してみましたので、ご紹介したいと思います。東京から新幹線で来て車で移動するという想定です。時間はおおよその目安です。新幹線は朝8時頃に三島に着くのがちょうどよいと思います。
コース2: 南伊豆の海底火山岩見学コース
【1日目】 南伊豆・須崎周辺
8:00 三島着⇒車で移動開始
【Stop 1】 須崎 恵比寿島:海底火山噴出物
【Stop 2】 爪木崎:海底火山の柱状節理
12:00頃 ランチ
【Stop 3】 下田 弁天島:海底火山の凝灰質砂岩の斜交層理
【Stop 4】 龍宮窟:海底火山噴出物
16:00頃 下賀茂温泉泊 チェックイン
2日目 南伊豆・石廊崎~中木
9:00 チェックアウト 車で移動開始
【Stop 5】石廊崎の遊覧船乗船 ヒリゾ浜付近:海底火山噴出物と柱状節理
【Stop 6】 アイアイ岬夕陽カフェ内のジオパークビジターセンター、または石廊崎オーシャンパーク内の南伊豆ビジターセンター
【Stop 7】中木の海底火山の柱状節理
13:00頃 途中でランチ
【Stop 8】 松崎町 中瀬邸内 ジオパークビジターセンター
【Stop 9】 一色の枕状溶岩
19:00頃 三島駅から新幹線で帰京
【1日目】 南伊豆・須崎周辺
【Stop 1】 須崎 恵比寿島:海底火山噴出物
須崎の恵比寿島は周囲数100m程度の小さな島で、遊歩道で一周できます。遊歩道沿いに一面に露頭が見られます。ぐるっと巡りながら、海底火山の噴火を想像してみましょう。
黒い溶岩の破片が一面にみられます。これは水中で噴火したマグマが急冷されて、粉々に砕けたものです。
しばらく歩くと、細粒な白い凝灰岩の層が挟まれています。
ここには水流で粒子が運搬された様子がカレントリップル(current ripple)として記録されています。カレントリップルの斜めの線(クロスラミナ)が水の流れた方向を示しています。これほどきれいなカレントリップルの断面は、なかなかありません。火山が水中で噴火して、噴出した火山灰が水中を流れ下った際にできたものと考えられます。
恵比寿島のジオについては、こちらに詳しい説明があります。
【Stop 2】 爪木崎:海底火山の柱状節理
爪木崎は冬は水仙の花が一面に咲き乱れるとてもきれいな場所です。柱状節理の美しさでは、日本有数のスポットです。遊歩道が整備されていて、とても歩きやすい場所です。
海底火山のマグマが地層に水平に貫入し、ゆっくり冷える際に六角柱状に割れ目(節理)が入りました。ジオ菓子の「柱状節理俵磯クッキー」のモデルにもなっています。
爪木崎のジオについては、こちらに詳しい説明があります。
【Stop 3】 下田 弁天島:海底火山の凝灰質砂岩の斜交層理
下田港近くの弁天島は白い凝灰岩質の岩石にきれいな斜交層理がみられるところで、ジオ菓子の「斜交層理パイ」のモデルになっています。
弁天島のジオについては、こちらに詳しい説明があります。
【Stop 4】 龍宮窟:海底火山噴出物
吉永さゆりのCMで注目された龍宮窟です。
手掘りのトンネルをくぐると、天井が空いた洞窟が海へつながっています。凝灰岩質なので柔らかいため、波の浸食で洞窟ができたのでしょう。上をぐるりと歩ける遊歩道があり、天井の穴から下をのぞくとハート形になっているのが、女子の心をつかんでいるそうです。
龍宮窟のジオについては、こちらに詳しい説明があります。
【2日目】 南伊豆・石廊崎~中木
【Stop 5】石廊崎の遊覧船乗船 ヒリゾ浜付近:海底火山噴出物と柱状節理
石廊崎の遊覧船に乗って、ヒリゾ浜周辺を遊覧しましょう。港は深く切り込んだ入江になっていて、両側には切り立った崖がみられます。
これまで見てきたものと同じく海底火山の噴火による堆積物です。
ところどころに垂直に溶岩が貫入した岩脈がみられます。
遊覧船がユウスゲ公園の沖合を通ると、これまで見てきた海底火山堆積物の上に、新しい時代の陸上火山(南崎火山)の溶岩が重なっている様子がみられます。
石廊崎のジオについては、こちらに詳しい説明があります。
伊豆半島ジオパークのサイト:石廊崎、ユウスゲ公園(南崎火山)
【Stop 6】 アイアイ岬夕陽カフェ内のジオパークビジターセンター、または石廊崎オーシャンパーク内の南伊豆ビジターセンター
海沿いの道を走っていると見晴らしのよいカフェがあります。ここからはシュノーケリングで有名な「ヒリゾ浜」を見下ろすことができます。透明なブルーの海がとてもきれいですが、夏は船でしか行かれない小さな浜に人がたくさんいます。ここで「ジオソフトクリーム」を食べて休憩しましょう。
ここはジオパークに関する展示、岩石標本が充実しています。ジオ菓子も買うことができます。
最近できた石廊崎オーシャンパーク内にも「南伊豆ジオパークビジターセンター」があります。
こちらの駐車場は有料なのですが、石室神社へは徒歩10分くらいで行けるので、遊覧船乗り場の駐車場(こちらも有料)に止めるよりはラクに行かれます。センター内にはジオパークの展示もあり、ガイドツアーも開催しています。
【Stop 7】中木の海底火山の柱状節理
シュノーケリングで有名なヒリゾ浜への渡し船がでる中木の港付近に巨大な柱状節理があります。海底火山の火道付近のマグマが冷えて固まったもので、「火山の根」と呼ばれます。溶岩が水中に噴出して破砕した堆積物が、この火山の根と接しています。遊歩道に沿って歩くと、火山の根の柱状節理から水中破砕溶岩へと変化する様子が観察されます。
ここは夏はヒリゾ浜へのお客さんで駐車場がいっぱいになり、入ることができません。夏は避ける方が無難です。また、柱状節理は崩れやすく危険なため十分注意してください。
遊歩道に沿って歩くと、柱状節理を持つ溶岩や水中破砕溶岩の露頭が連続しています。
中木のジオについては、こちらに詳しい説明があります。
【Stop 8】 松崎町 中瀬邸内 ジオパークビジターセンター
明治時代の商家「中瀬邸」内にある松崎ビジターセンターには、伊豆で産出する石灰岩や貝化石、サンゴ化石、珍しい鉱物などが展示されています。これまで火山岩ばかりみてきましたが、伊豆が遠い南の海にあった頃に堆積した石灰岩も産出します。ただ、アクセスしやすい露頭はないので、ここで観察するのがよいと思います。
【Stop 9】 一色の枕状溶岩
伊豆半島で最も古い仁科層群の枕状溶岩です。海底にマグマが噴出して水で冷えながら転がるため、丸っこい形になります。下向きに垂れ下がったような形は、まだ溶岩が柔らかいうちに下へ伸びるように変形したためです。
一色のジオについては、こちらに詳しい説明があります。
これで、ジオツアーその2は終わりです。事故や怪我のないように気を付けて見学してくださいね。
お土産に「ジオ菓子」はいかがでしょうか?今回、巡った各地の岩石を再現し、味もとっても美味しいお菓子です。伊豆各地のビジターセンターで購入できます。
<参考図書>
火山がつくった伊東の風景―伊豆東部火山群(北東部)のジオマップ (伊豆半島のジオマップ)
産業技術総合研究所 地質調査総合センター作成の日本全国の地質図