三島のビアバー「どてかぼちゃ」が2023年7月末で閉店しました。
創業は1987年とのことですので、約36年の老舗でした。
1987年というと、東京神保町のベルギービールの名店ブラッセルズの開店とほぼ同じ頃です。
1992年に新卒で就職した私は、ベルギービール好きの上司に連れられて、よくブラッセルズに行きました。
それまでビールと言えば、キリン、アサヒ、サッポロしかなく、
今のような地方のクラフトビールなんてなかった時代。
正直、目をつぶって飲んだら味の違いなんてわからなかったのですが、
ブラッセルズで初めてベルギービールを飲んだ時の感激は今も忘れられません。
色も濃い茶色やピンク、白く濁ったものなど一つ一つ違います。
アルコール度も高いモノもあるし、酵母が沈殿しているものもあったり。
そしてビールごとに合わせたグラスがあって、丸い大きなワイングラスのようなもので飲むビールは、香りが豊かでうっとりでした。
それまでビールは冷たく冷やして、グビッと一気に飲むものとされていましたが、
炭酸があまり得意でない私はそれが苦手でした。
ベルギービールはさほど冷たくなく、ゆっくり味わいながら飲むものとされています。
そんなところが自分には合っていたのです。
三島のような小さな町でベルギービール樽生が飲める名店があったなんて驚きでした。
初めて行ったのは三島に引っ越してすぐの頃、2014年頃、ほぼ10年前です。
その後、足が遠のいていたのですが、昨年春、友人とふらりと行ってみたら、7月頃閉店すると言われてビックリ。
カウンター6席と小さなテーブル1つのお店なので、カウンターに座ってマスターとおしゃべりするのが楽しくて。
閉店するまで約半年、友人と週に1回は通うほどになりました。
マスターはベルギービールの種類や注ぎ方に強いこだわりがあって、うんちくを語りだすと止まりません。
最近のクラフトビールは地元のフルーツやホップなどを使って、店内で色々な種類を少しずつ生産し、味くらべをするようなスタイルが主流です。
三島にはそういう醸造所兼バーのようなお店がたくさんあります。
このお店はそういうスタイルではなく、既存のベルギービールをいかにうまく注いで美味しく提供するかというこだわりがありました。
だからローカルの多種多様のビールを求めるお客さんには受け入れられなかったそうで、マスターは「これも時代の流れでしょう・・・」と言っていました。
以前は、もう少し広くてスタッフもいっぱいいて、
お料理のメニューもたくさんある店でしたが、
コロナもあり、時代の流れもあり、最後の方はギネス、サッポロ黒ラベル、エーデルピルスの3種類のみ、フードはスパーシーな豆とチキンのみとなっていました。
ですが、ビールの注ぎ方はそれぞれ変えていて、数回に分けて注いだり、泡を捨てたり、泡の上にクローバーの印を描いたり、こだわりがありました。
ここのギネス生はホントにおいしかった!
このクリーミーな泡にギネスのクローバーのマークを描くところが素敵。
最初、何も言わなかったから、気づかずに飲んじゃった。
ビールの種類によって飲み方も違うそうで、よくダメ出しされたもんです。
「目線は斜め上、上唇で泡をせき止めるように、3回で飲み干す」
のがよろしいとか、実演をして見せてくれたり(笑)。
ビールの注ぎ方も教えてもらいました。
ある日、マスターがカウンター席に移動し、
「俺にビール注いで出してくれるかな?今日はお客さんになりたいよ」
友人が、一生懸命、心を込めてビールを注いで出したら、
「うまい!!」と喜んでくれました。
そこでお通しにでてくるスパイシーな煎り豆が病みつきになるおいしさで、
作り方を聞いても最初は「秘密」とか言って教えてくれませんでした。
が、何度も通いながら少しずつ聞き出してメモをして、
試作品を作っては試食してもらい、ダメ出しを喰らうを繰り返しました。
閉店後のもう椅子も冷蔵庫もない店内で、
買ってきた缶ビールを開け、その豆を試食していただき、
ようやく「ウマい!!」と合格点をもらいました。
最後の日、店内の壁の文字を記念に写真を撮りました。
みんなで持ってきた缶ビールを全部飲みほして、いよいよ帰る時、
最後は涙をこらえて、みんなでハグをして別れました。
その数日後、マスターは引っ越していきました。
いつも前を通りがかっていたのに、何年かぶりにふらりと入ったお店。
その日に閉店が決まっていると言われて通いつめ、心通わせるまでに。
ふとした偶然と出会い、そして別れ。
こんな経験は東京にいた頃はありませんでした。
三島って、すごい街だな~。
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